・橋下徹大阪市長に断固抗議します

 

 橋下徹市長はこれまでも、日本軍「慰安所」制度が第二次世界大戦時にどのような加害を多くの女性たちに与え、彼女たちの人権をいかに蹂躙したかについては言及せず、安倍現総理大臣らと同じ論理を受け入れ、強制連行があったかなかったかが、日本軍性奴隷制度の問題の核心であるかのような発言を繰り返してきました。2012821日には、歴史家であり「慰安婦」問題の第一人者である吉見義明氏に言及しつつ、「強制連行はなかった」と発言しました。その点については、すでに吉見義明氏からの抗議文を受け取ったはずですが、釈明も謝罪も公には未だにされていません。

 2013513日、橋下氏はさらに、戦時下の兵士に「休息をさせてあげようと思ったら慰安婦制度は必要なのは誰だって分かる」と発言し、その後、発言撤回の求めには応じず、自らの主張は変える意志がないと言明しています。さらに、15日になって「日本だけが特殊ではない」、現代の人権意識と当時のそれとは「違う」、「世界各国が一番問題視しているのは、日本が国を挙げて女性を暴行、脅迫、拉致して、無理やりそういう仕事に就かせた」ことであるとかねてよりの持論を語りました。また、沖縄を訪れたとき、市長は、海兵隊司令官に「もっと風俗業を活用してほしい。活用したから事件が収まるわけではないが、そういうものを真正面から認めないとだめだ」と提案しました。

 女性を男性の欲望を満足させるための道具としか見ておらず、そのため、女性の性を貶め、人間の尊厳を踏みにじる、市長のこうした発言をわたしたちは許すことはできません。また、基地被害に苦しむ沖縄の人々が望んでいるのは、言うまでもなく、基地の撤去であるのに、風俗業の活用で基地被害を軽減しようなどというのは、沖縄の願いを愚弄し侮蔑する言語道断の発言で、とうてい容認できるものではありません。市長は、きれいごとではなく、現実を直視した本音を語ることが重要だと言いますが、その考え方は、現在の日本の軍事力強化の路線を肯定するもので、それとは違った国のあり方を求めるものではありません。また、市長の男性観は、男はこんなもんだと決めつけた、非常に貧しいものだと言わざるを得ません。

 

 わたしたち「女性・戦争・人権」学会は、1991814日の金学順さんの歴史的な、勇気ある告発を受け、自らの歴史認識を問い直し、国際社会に生きる構成員の一人である市民として、日本政府、ひいてはわたしたち市民がどのような責任を取るべきであるかを議論し、理解を深めるために1997年に発足しました。わたしたちは、日本社会において影響力ある政治家の一人として行われた橋下氏の発言に強く抗議をいたします。

橋下市長が「誤解」しているように、日本軍性奴隷制度は、西欧社会からの批判を受けて問題化されたのではなく、被害者の女性たちが、橋下氏のような偏見や憶測、女性蔑視が根深く残る社会をこれ以上存続させてはならないと立ち上がり沈黙を破り、その声に呼応した多くの市民、研究者たちの事実の発掘のなかで、ようやく深刻な人権侵害が第二次世界大戦中に行われていたことが明らかとなったのです。彼女たちの主張に声を傾け、性奴隷制度がもたらした人権侵害とは何だったのかを理解し、政治家としての公の発言を撤回するべく、以下のことを求めます。

 

1. 「必要」だったという発言が、いかに被害者女性たちの人格を踏みにじる行為であったかを認め、彼女たちに謝罪するべきである。

2. 性奴隷制度で最も問題視されるべきは、そして世界が問題視しているのは、慰安所における彼女たちへの人権侵害にある。したがって、「自由意志」による「仕事」などと粉飾することなく、慰安所の存在自体の人権侵害、当時における国際法違反であったことを認め、自らの認識の誤りについて謝罪するべきである。

3. 被害女性たちの訴えは、真相究明、歴史教育の充実、二度と同じ加害を繰り返さないように国際社会と未来に対して誓うこと、という現在の日本政府に対する要求であることを認めるべきである。問われているのは当時の人権意識ではなく、現在の日本社会であることを認識し、彼女たちの要請に対して一政治家として真摯に呼応すべきである。

 

以上より、グローバル社会の一員たる日本において、大阪市民を代表し、国政政党を率いる者として、その人権意識を謙虚に反省し、速やかに現在の職を辞任することを求めます。

 

 

20135月22日

「女性・戦争・人権」学会


<お問い合わせ>

〒602-0898

京都市上京区烏丸通上立売上る相国寺門前町647-20 

 同志社大学大学院 

  グローバルスタディーズ

  研究科内 

 

  岡野八代 研究室

  joseijinkensensou@gmail.com